米国の食産業を問題とした「フード・インクFood.inc」(2008年の米国映画)を観た。知人がTPP問題にもつながると言って勧めてくれた映画だが、食産業ビジネスの寡占化と農業支配の実態は、TPPや自由化に伴う農業の企業化の行く末を予感するもので、偏った見方を割り引いたとしても、とても平常心で観ていられるものではなかった。
 徹底した工業化により低価格を実現したファーストフードと野菜の価格が比較されていたが、結果として低所得者は体に悪いと知りつつもジャンクフードを食べることになるとの主張があった。これはTPP参加で安い農産物の輸入と付加価値を付け輸出を目指す(?)日本農業の未来を示唆しているのではないだろうかとも思えた。米国では食肉関連企業は一握りの多国籍企業が牛耳り、農家は設備投資の膨大な借入金と企業との契約により自由のない「企業奴隷」とも揶揄されていた。TPP参加を巡って政府は「農業を守る」といい、世論は企業参入による農業の企業化が必要というが、一定の所得が確保されたとしても「企業奴隷」の状態があるのなら、それが本当に地域の発展になるのか疑問を持たざるを得ない。
 また、TPPにおける交渉項目のひとつに食の安全基準がある。政府は「国際基準や科学的知見を踏まえ、適切に対応していく」としているが、BSEの検査基準が米国の圧力で20ヶ月から30ヶ月に緩和されたことは紛れもない事実である。更に米国では遺伝子組み換え食品の表示義務はないが、映画ではクローン食品の表示義務に関するカリフォルニア州議会で「消費者に無用な恐怖心を抱かせる」との反対意見が紹介されていた。そして、ファーストフード業界は食品のカロリー表示、精肉業界は産地表示に反対しているという事実を突きつけられると、米国流の安全基準が無理矢理日本に押しつけられはしないかと心配になってしまった。